橋本晃明

橋本晃明

Seven with Signor Sake:橋本晃明(はしもと てるあき)美吉野醸造 奈良県

私のお気に入りの日本酒の造り手に7つの質問を通して話を聞き、歴史ある伝統技術に迫ります。


天然酵母による発酵は、自然派ワインの世界や、市販の培養酵母が主流になる前は当たり前で唯一の方法だった。その一方で、現在、ほとんどの酒造メーカーは天然酵母を使っていない。味の好みや、味わいのばらつき、リスクの高さなど、天然酵母を避ける理由は様々だ。タンク単位の実験的な造りはしても、全種類を天然酵母で仕込むメーカーはほとんどいないと言っていいだろう。その数少ない酒造が橋本晃明氏率いる美吉野醸造だ。2017年から全商品を協会酵母を使わずに造っているが、その実現までに10年かかったという。

橋本氏は東京農業大学を卒業後、500年の歴史を持つ神戸の「剣菱」で3年間修業。ここで、菌や酵母の働きに任せ、微生物をコントロールするよりも、むしろ導くことに重きを置く造りに面白さを見出した。しかしそれは、大学時代に学んだことの多くを学び直すということも意味していた。

その後、奈良にある実家の美吉野醸造に戻る。同酒造は、日本酒発祥の地とも言われる奈良の中でも、世界遺産の吉野山と吉野川に囲まれた自然豊かな場所にある。近くの吉野林業では酒樽用の杉を加工しており、その利用も年々増やしている。橋本氏はさらに、吉野林業の良さを伝えることを目的とした吉野杉プロジェクトのメンバーとしても活動。酒造りのスタイルにかかわらず、地域社会を常に大切にする姿勢を貫いている。

その後、奈良にある実家の美吉野醸造に戻る。同酒造は、日本酒発祥の地とも言われる奈良の中でも、世界遺産の吉野山と吉野川に囲まれた自然豊かな場所にある。近くの吉野林業では酒樽用の杉を加工しており、その利用も年々増やしている。橋本氏はさらに、吉野林業の良さを伝えることを目的とした吉野杉プロジェクトのメンバーとしても活動。酒造りのスタイルにかかわらず、地域社会を常に大切にする姿勢を貫いている。

一 橋本さんは四代目ですが、蔵に入るプレッシャーはありましたか?

特にありませんでした。酒を造る方の勉強ばかりしていたので、経営自体があまりわかっていなかったかもしれませんが、造りたい欲求の方が強かったですね。 大学が東京農大で、卒業してから奈良の剣菱酒造に3年間お世話になって、その時に 自分たちが思っていた酒造りの範疇だけが酒作りではないと気づかせてくれました。 それから自分たちのこの吉野という地域に戻った時に、どんな酒造りができるのかなぁといった 興味がありました。


その時神社がたくさんあり、そのうちの3軒ぐらいお神酒を作る酒蔵があった。


二「花巴」という名前の起源を教えてください。

「花巴」という銘柄は吉野山という桜が有名な 山があり、修験道(山岳宗教)の総本山で、その御神木が桜です。その昔、1300年 信者が桜の木を県木として山が埋め尽くされるほど植えた。その時神社がたくさんあり、お神酒を作る酒蔵があった。その1つが花巴という銘柄を作っていたと聞いています。 そのころの蔵は明治時代に火事でなくなって残っていません。その後、今の場所で名前を受け継ぎました。花は桜 を、巴は吉野桜が広がる様をイメージしてると言われています。

三 蔵に戻った時の目標は?

まずは私自身、酒造りを1人でやったことがなかったので、ちゃんとした酒になるかどうか、作れ るかどうかということでした。その後にやはり、売るというところ。そこが1番難しかったです。 みんなに知ってもらって、飲んでもらって、でまた次の年また作れるをいうところが、一番最初は 大変でした。

その次に、吉野の地域と密着して醸造を考えて行きたい。それが今の目標です。 地域に根差す、必要とされること。 地域のものを使うだけでなく、地域にあってよかったなと思ってもらえるような醸造のあり方を 模索中です。



「花巴」というお酒のコンセプトは発酵の持つ酸を抑制せずに解放しながら味を造って行くというスタイルです。


四 銘柄の違いについて聞かせてください 。

「花巴」というお酒のコンセプトは発酵の持つ酸を抑制せずに解放しながら味を造って行くというスタイルです。その時に速醸、山廃、水酛といった酒母の力を借り、後は木桶、ホーロータンク、サーマルタンクの容器の力を借り、また絞り機の力を借り、熟成の力もそうですし、 色々な必然性を重ねて、味を造っていって、その味がこの人・こういう飲食店・こういう飲み手には良さそうだなというのを思い描きながら造っているのが花巴の酒です。少しは味を見ています。

「自然淘汰」というお酒は出どころを見ずに、「この場所で無理せずに酒造りをしたらこんな味になりました、それをみんなで楽しみませんか?」といった酒です。 こういった市場性があるから、こういったお酒をというのが花巴だとしたら、自然淘汰は仕方がないといった感じ。生き残っていくためには、この米しかないし、この酒造りをしなきゃいけないし、でもそうするとこういう合わせ方はできなからこうなってしまうねん、というのが自然淘汰。それは花巴があるからできることだし、逆に自然淘汰があると花巴も面白く見えるのではないかと考えています。

まず、無添加に全部変えたのは添加する意味合いがなくなったからです。


五 2017年からすべての酒を蔵付き酵母での造りに切り替えました。その経緯について教えてください。

まず、無添加に全部変えたのは添加する意味合いがなくなったからです。もともと色々な米や気候がある中で酵母菌がとにかく強くないと自由度が低くなるわけです。こういう酵母菌だからこういう仕込みをしないといけないという縛りがあると、こんな米の時はどうするのとか、こんな気候の時はどうするのっていうような縛りが多くなる。冷却タンクもそういった役目であるかもしれないが、木桶では使用できないし。

そういった自由度を上げるために強い酵母が欲しかった。強い酵母、どんなことをしても死なない酵母が欲しかったから、無添加に変えることができたんです。なぜ強くなるかというと、香り、味の安定感はないかもしれないが、無添加には、発酵能、濃度圧迫など、濃度の濃いところでの耐え方の信頼度がある。酒母という工程の中で濃度を濃くするが、その酒母の濃度の濃い状態でも生き残れる酵母菌しか残らない。それが自然淘汰という考え方になります。

今は優良とされる酵母菌を入れることによって、 その酵母の持っているニュアンスを出しましょう、それが純粋培養という考え方。Aという酵母菌 を入れたら、Aばかりが支配する世界観が味の世界観になるとではなくて、AもBもCもいっぱいい る中で、ぎゅっと濃い、しんどい状態にすることによってAしか残りませんでした、AとBが残りました。そういうのはその時々で違って良いと思う。その、フィルターにかけるみたいな意味合いが酒母の工程・役割としてある。その工程がある限り、安定感はかなりあることが分 かったので、蔵付きを始める際に不安はありませんでした。


なかなか品種のブランド力は強いので止めるのは難しかったのですが、去年から全てやめました。



六 他のメーカーのように、ラベルに米の品種を記載しないのには理由がありますか?

前まではやっていたのですが、やめました。 地域のお米の種類で味が変わっているように見せるというか、米の種類の特徴はもちろんあるのですが、それはこちらの手段であって、それが確実にその味になっているかというとそうでもない気がする。「こういう雰囲気を作るためにこの米を使わないとだめなんです」といった言い方はするかもしれないが、その米が商品の特徴を決定づけるまでのニュアンスとしては捉えられないようにしています。

それは先ほど言ったようにお米っていうものの産地ではなくて、色々な農業スタイルからできる米のパターンを解釈しながら味に落とし込むことができる醸造、酵母無添加にしてきたから、あえて品種を表に書く必要はないとずっと思っていた。なかなか品種のブランド力は強いので止めるのは難しかったのですが、去年から全てやめました。生産者の名前もほとんど書いていないです。ただ、一つの仕込みが終わった時、この仕込みは 誰々の何々というお米の何%のものが麹には使われているといったことは、全てトレースできるようにはしています。表に出していないだけです。 米は慣行栽培もあります。輪作をやる方は肥料をあげないと聞いています。生産者のなかには有機をやっている方もいます。


「残肥」というようです。残っている肥料だけで米を育てることができる。



七 輪作を実践している米農家さんからも仕入れていますね。

柿と梅をベースにしている農家ですが、その合間に玉ねぎと米の輪作をしている。 玉ねぎの苗を植えて、5月ぐらいに収穫します。 田んぼに一回水を張るので、土壌の細菌や栄養の偏りがなくなると聞きました。 

連作障害といって、ずっと同じ場所に農作物を植えられない作物でも、田んぼにすることで同じ場所で植えれられる。それが玉ねぎ側のメリットです。米側のメリットは 玉ねぎの時にあげた肥料や、玉ねぎの葉をそのまま土にすきこむので、 “残肥”があり米には肥料をあげなくて良い。残っている肥料だけで足りるので、肥料のコストが安くなる。両方のメリットがある。



SIGNOR SAKEのお気に入り

橋本さんは米の品種を特定せず、地域で栽培されたものを使用。水酛、山廃酛、速醸酛を使い、酵母の力と乳酸の育ち方の違いが風味を決めると信じている。

花巴 山廃四段 生酒

一般的な三段仕込みではなく、米と水を1回余分に加える四段仕込みにすることで、ボディ、甘味、濃度を高めている。花巴の特徴的なヨーグルトのような乳酸感、パッションフルーツ、マンゴ、深みのある味わいが特徴。

米の種類:N/A
精米歩合:66%
酵母: 蔵つき酵母
アルコール度数:17.5度
カテゴリ:純米吟醸酒
サブカテゴリー:無濾過生
スタイル:芳醇甘口

リシャール ジョフロワ

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久保順平

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