奥 裕明
Seven with Signor Sake:奥 裕明(おく ひろあき)秋鹿酒造 大阪県
私のお気に入りの日本酒の造り手に7つの質問を通して話を聞き、歴史ある伝統技術に迫ります。
秋鹿の酒は日本で最も人気のある酒の一つで、気弱な人には向かない、複雑で、酸味があり、熟成に値する酒です。フラッグシップの「奥鹿」は、販売前に3年間自社熟成させており、すぐに売り切れてしまいます。さらに、蔵元と5人の蔵人たちが手塩にかけて育てた雄町米で造るシングルオリジンのシリーズもあります。
六代目当主の奥浩明さんは、父から蔵を引き継ぎ、酒米の栽培から精米まで自社で行うという、日本酒業界では稀有な試みを行いました。奥家では17世紀から代々この地で米を作っていましたが、六代目はそれを農薬や除草剤、化学肥料を使わない自然栽培へと移行しました。
酒蔵を創業したのは1886年、奥の祖父である鹿之助が醸造免許を取得してから。蔵の名前は、鹿之助の「鹿」と「秋」を組み合わせた造語です。秋の酒は一年の中で最大のハイライトですから、ぴったりな名前となりました。
一 秋鹿の酛絞りが大好きなのですが、酛絞りができた経緯や造り方を教えてください。
私は3年ほど酒母を担当していた時期がありました。丁度、山廃を始めた頃です。山廃の酒母の香りと味わいが大好きで、そのまま飲みたいと思ったのです。
山廃の酒母の味わいと醪の味わいはかなり違います。醪になった時の味は酒母を元にして、醪を作る訳なので、山廃の味わいが薄れてくる。酒母自体を味わいたいと強く思いました。酒作りをしている最中に酒母を舐めるとすごく美味しい。これは酒作りしている者しか分からないですね笑 これを絞りたい、と思った。
すごく簡単な話ですが、速醸を搾っても美味しくないだろうし、山廃生酛の天然の乳酸菌であること、原料が山田錦であることが美味しさの秘密です。発酵日数は毎年異なりますが、早い時で20日、去年は長くて30日です。掛け米と麹米の割合は同じぐらいです。
二 生酒も熟成などを行なっていますが、熟成について教えてください。
熟成について色々分かり始めたのは、以前、蔵元交流会で色々な蔵元に出会ったことでたくさんの新しい気付きがあったことと、ほかの蔵元に熟成した方が良いとアドバイスをもらったことがあったからです。私達の酒は熟成させると美味しくなるというのは、薄々気づいていました。2006年から意図的に熟成させて、3年熟成させたものが初めての山廃奥鹿です。生原酒でも火入れでも保管温度は10度~20度です。熟成を進めるのが 私達のポリシーなので低温度では保管していません。ラベルには要冷蔵とは記載しているので矛盾していますが (笑)。
三 一貫作りについて教えてください。
この業界での典型的なアプローチは、農家が米を栽培し、酒蔵が日本酒を造ることです。 しかし、 私はワイン作りの世界ではブドウから作るのが当たり前なのに、酒作りはなぜ米から作らないのかと疑問に思いました。一貫作りということは、米作りから酒造りまで一貫して作り上げることを意味します。酒の原料である米から手掛ける作業は秋鹿の酒造りの基本であり、私達にとって大切なことです。
一貫作りということは、米作りから酒造りまで一貫して作り上げることを意味します。
四 飯米から酒米に変えた理由は?
一部の飯米を酒米用として使っていたときもありました。でも、山田錦の魅力に惹かれ、高精白の大吟醸ではない、低精白のお酒を酒を作りたい衝動に駈られたのです。山田錦は高精白の酒だけではなく、低精白の酒にもなれる元々のポテンシャルがあると考えました。普通の米に比べて非常にたんぱく質の含有量が少ないから、クリアなのに、豊かでふくよかな味わいとなると思いました。秋鹿では昭和60年から酒米を作っているので、方針を変えてから今では35年くらい経ちます。
昔、私が子供のころは、ここら一帯はヘリコプターで農薬を畑に空中散布をしていました。
五 米の無農薬栽培をはじめた理由を教えてください。
自然環境に優しいということが1つの理由です。昔、私が子供のころは、ここら一帯はヘリコプターで農薬を畑に空中散布をしていました。また、ごみ処理場から出た有害物質が排水に混ざったまま外に出たりして、豊かな自然を壊していました。さらに、自分たちが作る米に他のメーカが作った化学肥料を使い、それを酒に使うのは間違ったことだと思ったのです。蔵元が米を作る意義を考えると、他の農家がやっていることをやっても意味がないと思いました。酒を造るためにどういった原料に拘り、つきつめるかが蔵元が米を作る意義です。
市販の肥料も原料になっているものが全く分からないからです。有機肥料ということで販売しているメーカもありますが、魚の骨や、動物性のものが原料として使われている可能性がある。動物が飼育されたときにホルモン剤が入っている事がある。そういう心配があるから自分たちで肥料を作ったほうが信頼できる。しかし、そこまでの管理を他の農家の人にお願いすると、費用が今の米の価格の4~5倍かかってしまいます。自分たちで作っているからこそ、そこまで管理を徹底できるのです。
六 有機農業への移行と、その農法について教えてください。
徐々に栽培面積を増やしていきながら、慣行農法もより自然に近い方法へ変えました。5~10年前からこのスタイルです。現在は22ヘクタールの水田があります。農薬、除草剤、肥料は一切使用していません。 稲作と酒作りの副産物である籾殻、ふすま、酒粕を使用して、発酵させて翌年の収穫用堆肥として利用しています。 一種の循環型農法です。
しかし、大変なところもありますが、自分達で作った米はどう育ったのかを全て知っていて、安心の品質があるのです。
七 有機栽培での米作りの課題は何ですか?
この活動の難しいところは除草剤をやらないから、余分な草の勢いに稲が負けて収量が少なくなってしまいます。田んぼに入り、自分たちの手で余分な草を取ることも必要です。副産物の量も限られているのでたくさんの肥料を米にあげることができません。そのため、私達の収量は普通の農家の半分から3分の1の収穫量になってしまいます。私たちは全部で22ヘクタールの畑がありますが、この辺の盆地に100箇所以上、点在しています。その畑を管理するのも大変です。しかし、大変なところもありますが、自分達で作った米はどう育ったのかを全て知っていて、安心の品質があるのです。
SIGNOR SAKEのお気に入りの日本酒
秋鹿のお酒は、多くがミディアムボディで、複雑で、風味が層状に重なり詰まっています。収量を犠牲にしつつも地元で栽培した有機米を使い、優れた品質を追求し、複雑な味わいに仕上がっています。自家栽培米が使われているお酒のボトルには(へのへのもへじ)のイラストが。自家栽培以外もすべて大阪の農家から調達しており、地元産にこだわっています。
入魂一滴 無濾過生源酒(火入れなし、加水なし、木炭調整剤なし)
賞や鑑評会などの枠を超えた独自のクラスのお酒で、典型的な純米大吟醸ではありません。秋鹿チームが育てた有機米を使用し、辛口かつ余韻の長い仕上がりで、複雑味と上品さを組み合わせた、トップグレードの日本酒としては珍しいお酒です。
黒もへじ(雄町雄町)無濾過生源酒(火入れなし、加水なし、木炭調整剤なし)
シングルオリジンがコンセプトのこのお酒は、蔵から目と鼻の先にある一つの田んぼで蔵人たちが有機栽培で育てた米のみで造られています。販売するまでに最低4年熟成させ、丸みを帯び、エレガントで、ナッティ。杉や出汁のほのかな香味、かすかにアニスやメロンが香ります。
奥鹿山廃 無濾過生源酒(火入れなし、加水なし、木炭調整剤なし)
フラッグシップの奥鹿には山廃と生酛があり、どちらもリリース前に3年間で熟成されています。山廃は早い段階で親しみやすい味わいとなる一方で、忍耐強く数年間待つことができれば、生酛もあっと驚くような味わいになるポテンシャルを秘めています。風味豊かでナッティ、椎茸の香り、シナモンのような甘いスパイス、そして最後はココア。素晴らしい。
酛絞り 無濾過生酒(火入れなし、木炭調整剤なし)
大きなタンクに移す前に瓶詰めした酒母。アルコール度数8%、甘くてシルキー、心地よい青リンゴの酸味、マンゴーやグアバなどのトロピカルフルーツの香りと洋ナシ、そして米ぬか。