森喜るみ子
Seven with Signor Sake:森喜 るみ子(もりき るみこ)森喜酒造場 三重県
私のお気に入りの日本酒の造り手に7つの質問を通して話を聞き、歴史ある伝統技術に迫ります。
「るみ子の酒」のラベルに描かれている森喜るみ子さんは、森喜酒蔵の蔵元杜氏で、男性中心の日本酒業界では数少ない女性杜氏の一人です。森喜さんは、忍者で有名な伊賀にある酒蔵の5代目で、生化学者である夫の英樹さんと共に蔵を運営しています。しかし、最初から酒造りに携わっていたわけではありませんでした。蔵が経営危機に直面したことで、根本からアプローチを変えるため、自ら酒造りにも携わるようになりました。また、手間はかかるものの、酒に個性が出る有機米の栽培も行なっています。
一 酒造りへの情熱に気付いたのはいつでしょうか。
大学時代に大阪で下宿するため初めて家を離れ、日本酒が好きなことを再確認できました。また自分の手で触ったお米が日本酒に変わっていくことの貴重さを感じました。
二 酒造業界では蔵付酵母ではなく協会酵母を使用することが一般的ですが、蔵付酵母と協会酵母についてどう思いますか?
生酛、山廃仕込みをやるようになって、これ(蔵付酵母)がホンマやなぁと思います。できれば将来的には100%蔵付酵母で酒作りをやってみたいです。協会酵母は安定した酒造りができるけども面白くないですね。
“協会酵母は安定した酒造りができるけども面白くないですね”
三 尾瀬先生のイラストが描かれた“るみこの酒“のラベルはとても印象的ですが、どのようにして生まれたのですか?
父が病気になった後、酒蔵のマネージャーとオーナーの役割を両方引き受けなければなりませんでした。 私は酒造りを楽しんでいたので、突然多くの責任を負うことになっても、家業をあきらめたくありませんでした。 その頃、大事な収入源だった、大きな酒蔵へお酒を供給する契約を失いました。 その損失を補うために、私は地元のバーやレストランに出向いてお酒を売っていました。 大変な時期でした。
世代交代(昭和64年)してから目減りして、平成2年に未納税が打ち切りになり、生き残りのために、社長、旦那が考えに考えて、酒蔵をやめるか、純米だけにするかの二択しかありませんでした。
※未納税:大手の下請としてタンクまるごと生産すること
現場に入って仕事をしていく内に仕込み作業が愛おしく、酒蔵を辞めることはしたくなかった。妊娠中でさえも仕込みをしていました。それでも飲み屋への配達で家計を保っていた大変な時期に、知り合いの酒屋で『夏子の酒』を勧められ、すぐに買いに行きました。
仕事後、子供にご飯を食べさせて、読み始めたのは11時すぎでしたが、1巻から9巻までをあっという間に読んでしまいました。真面目にやればその思いは伝わるという内容に本当に心励まされました。
“妊娠中でさえも仕込みをしていました”
特にラストシーンで夏子の誕生日に酒を絞るシーンは、2回も3回も読み直しました。その日の夜は眠れなかったです。なんと、主人公の夏子が自分と同じ2月7日生まれで、運命を感じ鳥肌が立ちました。居ても立っても居られず、読み終わったその晩に便箋7枚分の手紙を書いて、翌朝尾瀬先生宛てに郵便を出しました。その1週間後に尾瀬先生から返事が来て、その後も勉強会のお誘いや他の蔵元へ協力を呼びかけてくれました。純米酒に変えた時にはそのラベルを描いてくれると言ってくれました。それがこのラベルが生まれた物語です。尾瀬先生がラベルのお代として要求したのはお酒だけでした。
四 チャレンジ90は精米歩合を最小限に抑えていますが、背景を教えてください。
2003年からチャレンジ90作っていますが、その年は夫が半端に余ったお米の処理に困っていました。山田錦を始めたのも生酛を始めたのも同時期で、昔ながらの製造方法を今なりに表現する、原点回帰という意味を込めています。自分たちで作った無農薬のお米は年によってできる量がまちまちなので、100kgぐらい半端な量が収穫できたときは、生酛を作るようにしています。
山田錦の栽培について、永谷先生に山田錦は雑草のようなものだから、改良品種と同じように水や肥料をやるのではなく、たくさんは与えずにストイックに育てれば山田錦の本質が出てくるというアドバイスをもらいました。実は忠実にこのアドバイスに従ったら貧相なお米ができてしまった時もありましたが(笑)
ストイックに育てた雑味がない山田錦の本領を最大限に発揮させるには、磨く必要がないと考えたのがチャレンジ90のアイディアの元です。
“磨く必要がないと考えたのがチャレンジ90のアイディアの元です”
五 チャレンジ90の造り方を教えてください。
企業秘密です(笑)造り始めた時、一番のチャレンジは原料処理でした。始めは4時間吸水させていましたが、1日浸漬にしてみたり、2〜3日にしてみたり、ぬるま湯にしてみたり、色々調節しました。
六 これまでの酒造りで一番大変だったことは?
何か正解なのかがわからなかったことですね。第三者にアドバイスをもらっても、この設備が足りない、やり方を変えた方が良いなどで、すぐにたくさんは変えられないため、自分達でできるとこから改善し始めて、それを繰り返していました。
純米酒に切り変えることを親に説得するのは大変でしたが、他は難しいと思ったことはないです。ただ、出来上がった酒がすべてなので、いつも緊張していました。酒造りを始めた最初の方は出来上がった日本酒の味を細かく気にしていました。だから味もトゲトゲしていたかもしれないです。けど、お酒って包容力があって、私たちが作っているのではなく、私たちは酵母のお手伝いをしていて、お米の気分、質で味が変わります。お米を制御するのではないと思い始めた時、味も丸くなった気がします。
“けど、お酒って包容力があって、私たちが作っているのではなく、私たちは酵母のお手伝いをしていて、お米の気分、質で味が変わります”
平成6年、純米を生産し始めて1年目は話題になったこともあり、タンク2つ分が売り切れになったのですが、1年目で生産した日本酒について、2年目は杜氏がバッシングを受けたこともあり、酒蔵を離れてしまいました。他の杜氏も見つからず、その年から本当に自分たちだけで生産することになりました。そんな時も神亀さんや近所の杜氏さんが手伝ってくれました。朝晩、神亀に電話してアドバイスをもらったことも、繁忙期の2月半ばに直接森喜酒造に来てくれることもありました。辛い時も手伝ってくれる人がいました。ありがたいことです。
七 今後の森喜酒造について教えてください。
自然発酵を増やして酵母無添加でやっていきたいと私自身は思っています。あとは田んぼを増やしていきたいですね。使用している米の内、5%は自分の田んぼで肥料は酒粕だけの無農薬米です。酒粕は毎年11月に田んぼに蒔きます。
“マーケティングだけのためではなく、無農薬にするとやはり米が強いです"
マーケティングだけのためではなく、無農薬にするとやはり米が強いです。それより先のことは、もしかしたら次の世代が考えるかもしれません。しかし、私の子供たちからすると今と同じ方針を続けるようです。
SIGNOR SAKEのお気に入りの日本酒
妙の華 Challenge 90
自家製無農薬米で造られた熟成向きのお酒。深い味わいとフルーティーさが交互に現れ、旨味がいつまでも続く。常温がおすすめ。
米の種類:自家米 山田錦(三重県)
精米歩合:90%
酵母:協会酵母6
アルコール度数:18%
カテゴリ:純米生酛
サブカテゴリー:無濾過生原酒
すっぴんるみ子の酒
絞りの後の工程を最小限に抑え、「すっぴん」のお酒の味わいが楽しめます。バブルガムとかすかな土の香りにしっかりとした酸、キレのいい後味のお酒です。
米の種類:八反錦(広島県)
精米歩合:60%
酵母:協会酵母6
アルコール度数:18%
カテゴリ:純米吟醸山廃
サブカテゴリー:無濾過生原酒
森喜酒造ホームページ
https://morikishuzo.co.jp/index.php